
いつの時代でも医師・医療従事者に求められるのは、患者さんの診療をしながら文献を「読む」、きちんとしたサマリーや症例報告を「書く」、日々のプレゼンテーションや学会でわかりやすく「話す」、そして常に患者さんの価値観や社会的な固有の問題を通して自らの医療観を「考える」ことだと思います(1)。
上記の文章は以前勤務していた病院の指導医の先生の言葉です。小生も研修医の頃から「読み」、「書き」、「話し」、そして「考える」ことの重要性を指導医の先生方より厳しく教えられ、それができるように努力してきました。
現在医療界では様々な問題が噴出しており、医師の負担は増えるばかりです。患者さんへの説明責任に関しては文献を「読む」ことでしっかりとした医学的知識を蓄え、患者さんや家族にわかりやすく「話し」、その結果をきちんと診療録・カルテ等に「書く」ことが求められています。つまり「読み」、「書き」、「話し」、そして「考える」ことは医師にとって欠かせない基本的で重要な技術となります。
一方で疫学的に稀な症例や診断・治療に苦慮した症例等を学会で報告したり、学術論文にまとめたりする「日常診療の科学化」(2)の作業や過程が研修医や若手医師の成長にとって極めて重要です。医師は臨床医であると同時に自然科学者の側面もあるからです。しかし一般的に市中病院で研修することの欠点の一つはアカデミックな教育や臨床研究の手法を学ぶことが少ないことです。地域医療の現場では研修医・若手医師が学術活動や臨床研究を始めようとしても診療が多忙であったり、指導する指導医層が少ない事がおこりえます(3)。
わが国では歴史的に主に大学病院や医学部・大学院等で若手医師の卒後教育を行ってきました。しかし市中病院で研修する研修医が全体の50%になった現在、大学病院等で行ってきた卒後の医学教育を多くの市中病院でも行うことが求められています。そのために地域医療の現場でも指導医を中心にして質の高い学術活動や臨床研究を行う必要があります。
千葉県立東金病院は千葉県東部の地域中核病院であり、地域医療を実践するには大変魅力がある場所です。さらに院長をはじめ医療スタッフが地域医療や糖尿病・内分泌疾患等に関する臨床研究や学術活動を熱心に行っていることで広く知られています。そのために若い医師も臨床活動を行い、かつ指導医の助言をもとに臨床研究や学術活動を学び、実践できる環境にあります。
離島・へき地を含めた地方の中小病院や診療所は臨床疫学の宝庫であることを実感しています。最先端の臨床研究や学術活動が大学病院、大病院等からのみ発信されるのではなく、地域医療の現場からより多くの質の高い臨床研究を発信できるようになればよいと考えています。それはわが国における地域医療の診療の質の向上やプライマリ・ケア分野の学問性の向上にも繋がるのではないでしょうか。
英国ではAcademic Primary Careの概念が確立しており、Academic General Physicianが臨床研究を行い、多くのエビデンスを発信してきました。また米国ではハーバード大学医学部・大学院などの機関で臨床研究者を育成するプログラムがあります。プライマリ・ケア分野の臨床研究はAcademic Researcherが行なう研究のみではなく、診療の場から出た疑問に対する答えを得ようとするものや診療の質を改善するために行なわれています(4)。
わが国では京都大学大学院・医学部医学科・社会健康医学系専攻において臨床研究者養成コース(MCR)が平成17年度に開設されました(5)。今後は市中病院に勤務しつつ、臨床研究者を志向する若手医師は増えるものと思われます。
わが国でも地域に根ざした臨床医・臨床研究者を育成し、離島・へき地をはじめとする地域医療の現場からのエビデンスを発信する仕組みつくりが今後求められています。それにより日常の臨床活動だけでなく学術活動や臨床研究にも興味を覚える若手医師がもっとプライマリ・ケアの現場に入りやすくなると考えます。それが地域医療の現場で働く医師のモチベーション(動機付け)にも繋がるのではないでしょうか。
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